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- 高齢になっても演奏や歌を続けている親を、どう応援すればいいか知りたい
- 「この年で楽器なんて」とためらう親に、音楽を始めてほしい
- 耳や指が衰えてきても、ミュージシャンとして活動を続けられる?
- 介護が必要になっても、音楽を楽しむ方法はある?
若いころからバンドや合唱を続けてきた親が、「最近は耳が遠くなって」「指が思うように動かない」と弱音をこぼす。反対に、定年後に「何か楽器をやってみたい」と言い出す。そんな姿を見て、どう声をかければよいか迷う家族は少なくありません。この記事では、高齢になっても活躍するミュージシャンの姿や音楽と脳の研究を紹介しながら、年齢による体の変化に合わせた続け方、これから始める方法、介護が必要になってからの楽しみ方、家族ができるサポートまでをまとめました。
※人物の情報や研究結果は、2026年10月時点で報道機関・研究機関の発表で確認した内容に基づいています。
高齢者のミュージシャンは珍しくない|年を重ねても音楽を続けた人たち
「ミュージシャン」と聞くと若い人を思い浮かべがちですが、高齢になっても第一線で演奏や歌を続けた人はたくさんいます。プロの例を知ると、「年だから」とあきらめる必要はないと感じられるはずです。
100歳を超えてもピアノを弾き続けた室井摩耶子さん
ピアニストの室井摩耶子さんは、1945年にソリストとしてデビューし、戦後はドイツを拠点に活動しました。帰国後も演奏を続け、100歳を超えても、解説を交えた演奏会を開いていました。2026年7月に105歳で亡くなるまで、テレビ出演や執筆でもピアノの魅力を伝え続けました。著書の題名『毎日、続ける』には、長く音楽と向き合ってきた姿勢が表れています。
体と相談しながら「引き際」を決めた加山雄三さん
歌手の加山雄三さんは、2022年6月に高齢を理由として、その年いっぱいでコンサート活動から退くと発表しました。9月には東京国際フォーラムで「ラストショー」を開き、85歳で舞台を締めくくっています。過去に脳梗塞や小脳出血を経験したことも報じられており、体への負担を考えたうえでの決断だったとされます。無理を重ねるのではなく、自分で区切りを決めることも、長く音楽と付き合うための一つの形です。
認知症と診断されたあとも歌ったトニー・ベネットさん
アメリカの歌手トニー・ベネットさんは、2016年にアルツハイマー病と診断されました。家族が病気を公表したあとの2021年8月にも、95歳でニューヨークの大きな会場に立ち、歌手のレディー・ガガさんと共演しています。その後、医師の判断で公演活動を終え、2023年7月に96歳で亡くなりました。身についた歌や演奏は、病気になってもすぐに失われるわけではないことを、多くの人に印象づけました。
プロでなくても、地域の合唱団や吹奏楽団、カラオケ仲間の中には、70代・80代で活動している方がたくさんいます。ご本人が「ミュージシャン」を名乗っていなくても、音楽を続けていること自体が立派な生きがいです。
高齢者が音楽を続けるメリット|研究から分かる脳と心への良い影響
音楽を続けることには、楽しさだけでなく、脳や心の健康とのつながりも報告されています。ただし、どの研究も「音楽で病気が必ず防げる」と証明したものではありません。その点に注意しながら見ていきましょう。
年をとっても「聞き取る力」が保たれやすい
中国科学院心理研究所の研究チームは、2023年に科学誌『Science Advances』で、高齢の音楽経験者・音楽経験のない高齢者・若い人の3グループを比べた研究を発表しました。雑音の中で言葉の音を聞き分ける課題では、高齢の音楽経験者は、若い人と同じくらい聞き分けられたと報告されています。脳の働き方も若い人に近い部分があり、練習量が多い人ほどその傾向が強かったとされています。
楽器を演奏する人は認知症になりにくい傾向
スウェーデンの双子を対象にした研究(2014年発表)では、同じ双子の間で比べたとき、楽器を演奏していた人のほうが、認知症や認知機能の低下が少ない傾向が見られました。双子で比べることで、遺伝や育った環境の影響をある程度そろえられるのが特徴です。ただし、対象となった組数は少なく、研究者自身もさらなる検証が必要としています。
仲間とのつながりが生まれる
バンドや合唱、サークルでの活動は、練習日に出かける理由になり、仲間と話す機会を増やします。2024年に医学誌『ランセット』の専門委員会が示した報告では、社会的な孤立や聞こえにくさ(難聴)も、認知症の発症に関わる可能性がある14の要因に含まれています。音楽仲間との交流は、こうした孤立を防ぐ一つのきっかけになります。
| 研究・報告 | 分かったこと | 注意点 |
|---|---|---|
| 中国科学院(2023年) | 高齢の音楽経験者は、雑音の中の言葉を若い人並みに聞き分けられた | もともとの集団を比べた研究で、音楽が原因とまでは言えない |
| スウェーデンの双子研究(2014年) | 楽器を演奏していた人は、認知症などが少ない傾向 | 対象が少なく、さらなる検証が必要 |
| ランセット委員会(2024年) | 難聴や社会的孤立など14の要因が認知症に関わる可能性 | 集団全体での推計で、一人ひとりのリスクを示すものではない |
※出典:中国科学院プレスリリース(2023年4月)、International Journal of Alzheimer’s Disease(2014年)、The Lancet「Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report」
趣味がなくなったときの心身の変化については、高齢者に趣味がないとどうなる?研究データで見る5つの変化でもくわしく紹介しています。
年齢による体の変化と演奏の工夫|耳・目・手指・体力への対策
長く音楽を続けてきた方ほど、「前のように弾けない」ことに落ち込みやすいものです。体の変化は誰にでも起こります。やり方を少し変えるだけで、続けやすくなることがたくさんあります。
| 体の変化 | 演奏で困ること | 工夫の例 |
|---|---|---|
| 聞こえにくさ | 高い音や周りの音が聞き取りにくい | 耳鼻咽喉科で相談する、練習の音量を上げすぎない |
| 見えにくさ | 楽譜の小さな音符や歌詞が読めない | 楽譜を拡大コピーする、譜面台を明るく照らす |
| 手指のこわばり | 速いフレーズや押さえにくい和音がつらい | 演奏前に手を温める、テンポや調を変えて弾く |
| 体力・筋力の低下 | 重い楽器を持てない、長く立っていられない | 座って演奏する、軽い楽器や機材に替える |
| 息が続かない | 管楽器や歌で長いフレーズが苦しい | 息つぎの場所を増やす、曲を短くする |
耳:聞こえにくさは早めに相談を
年齢とともに起こる難聴(加齢性難聴)は、一般に高い音から聞こえにくくなるといわれます。音楽をする人にとって耳の変化はつらいものですが、そのままにせず、耳鼻咽喉科で相談してみてください。補聴器を使う場合は、楽器の音や歌声が自然に聞こえるか、販売店で試しながら調整してもらうと安心です。インターホンやテレビの音が聞こえにくい場合の対策は、高齢者にチャイムが聞こえないとき|原因・光るチャイム・家族ができる対策を解説でも紹介しています。
目:楽譜と手元を「見やすく」する
楽譜はコンビニのコピー機などで拡大するだけでも、ずいぶん読みやすくなります。タブレット端末で楽譜を表示し、指で拡大する方法もあります。ステージや練習場所の照明が暗いときは、譜面台に付けるライトがあると便利です。
手指と体:無理のない姿勢と時間で
演奏前に手をお湯で温めたり、軽く指を動かしたりすると、こわばりがやわらぎやすくなります。痛みやしびれが続くときは、我慢して練習を続けず、整形外科などを受診してください。練習は1回を短めにして休憩をはさむ、立って弾いていた楽器を座って弾く、といった工夫も効果的です。
「昔のように弾けない」と感じたら、曲の難しさを下げるのは恥ずかしいことではありません。テンポを落とす、キーを下げる、パートを簡単にする。プロのミュージシャンも、年齢に合わせて演奏スタイルを変えています。
何歳からでも始められる|高齢者が音楽を始めるときのおすすめ楽器
「若いころに楽器をやってみたかった」という方は、今からでも遅くありません。音楽は、上手に弾けるかどうかより、音を出す楽しさや仲間との時間に価値があります。まずは、体への負担が少なく、すぐに音が出せる楽器から試してみましょう。
| 楽器 | 特徴 | 向いている人 |
|---|---|---|
| 歌(合唱・カラオケ) | 道具がいらず、今日から始められる | 楽器にはまだ自信がない人、仲間と楽しみたい人 |
| ハーモニカ | 小さく軽い。吹く・吸うで音が出る | 持ち運びたい人、懐かしい歌を吹きたい人 |
| ウクレレ | 弦が4本で軽く、簡単な和音で伴奏できる | 弾きながら歌いたい人 |
| 大正琴 | 数字の楽譜があり、ボタンを押して弦をはじく | 楽譜が読めない人、座ってゆっくり弾きたい人 |
| 電子ピアノ・キーボード | 音量を調整でき、ヘッドホンで夜も練習できる | 集合住宅に住んでいる人、両手を使いたい人 |
始め方の手順
- まず聴きに行く
地域の発表会や公民館のサークルを見学し、「楽しそう」と感じる楽器を探します。 - 借りて試す
いきなり高い楽器を買わず、教室やサークルの貸し出し、レンタルで試してみましょう。 - 習う場所を決める
大人向けの音楽教室、自治体の生涯学習講座、公民館のサークルなど、通いやすい場所を選びます。 - 小さな目標をつくる
「孫の誕生日に1曲弾く」など、身近な目標があると続けやすくなります。
上達より「楽しい」を大切に
大人になってから始めると、思うように上達しないことにいら立つこともあります。家族は「上手になったね」より、「楽しそうだね」「また聴かせて」と声をかけてみてください。聴いてくれる人がいることが、続ける一番の力になります。
高齢ミュージシャンが活躍できる場所|サークル・地域・施設での演奏
練習を続けるには、発表する場や一緒に演奏する仲間がいると張り合いが出ます。高齢の方が活動しやすい場所をまとめました。
公民館・生涯学習のサークル
多くの自治体では、公民館や生涯学習センターで音楽サークルが活動しています。合唱、民謡、大正琴、ウクレレ、吹奏楽など種類も豊富です。自治体の広報紙やサークル紹介の冊子で探してみてください。サークル仲間は、音楽以外でも気軽に話せる友人になることがあります。仲間づくりについては高齢者の茶飲み友達の見つけ方|出会える場所7選と家族ができるサポートも参考になります。
介護施設や病院でのボランティア演奏
演奏経験のある方は、介護施設や病院でのボランティア演奏で活躍できます。自治体によっては、施設で演奏したい音楽家を登録し、施設とつなぐ仕組みを設けています。たとえば埼玉県は「アーティストボランティアバンク」として、社会福祉施設や病院などで無報酬で演奏する音楽家を登録し、施設との橋渡しをしています。お住まいの地域では、社会福祉協議会のボランティアセンターに相談してみましょう。
地域のお祭り・イベント
商店街のイベントや地域のお祭りでは、出演者を募集していることがあります。人前で演奏する経験は、練習の目標にもなります。屋外での演奏は暑さ・寒さで体に負担がかかるため、出演時間や控え場所を事前に確認しておくと安心です。
施設でボランティア演奏をするときは、利用者が若いころに親しんだ歌謡曲や唱歌を取り入れると、一緒に口ずさむ方が増えます。演奏時間は30分前後にまとめ、事前に施設の担当者と曲目や音量、感染症対策を相談しておきましょう。
介護が必要になっても音楽は楽しめる|デイサービス・音楽療法・自宅での工夫
足腰が弱くなったり、認知症の症状が出てきたりしても、音楽との付き合い方はいろいろあります。「もう演奏会には行けない」とあきらめず、今の状態に合った形を探してみましょう。
デイサービスのレクリエーションで
デイサービス(通所介護)では、歌や簡単な楽器を使ったレクリエーションを行うところが多くあります。楽器が得意な方なら、職員と相談して、ほかの利用者の前で演奏を披露する機会をもらえることもあります。「教える側」「聴かせる側」に回れることは、本人の誇りにつながります。見学のときに、音楽の活動があるか聞いてみてください。
音楽療法という選択肢
音楽療法とは、歌や演奏、音楽を聴くことなどを通して、心身の機能や気持ちの安定を支える取り組みです。日本音楽療法学会が認定する「音楽療法士」という資格がありますが、国家資格ではありません。病院や介護施設、デイサービスなどで取り入れているところがあるので、関心があればケアマネジャーや施設に相談してみましょう。
自宅では「聴く」「口ずさむ」から
演奏が難しくなっても、好きだった曲を一緒に聴くだけで、表情がやわらぐことがあります。本人が若いころに演奏していた曲や、よく歌っていた曲をかけてみてください。昔の演奏の録音や写真があれば、それを見ながら話を聞くのもおすすめです。
訪問介護(ホームヘルパー)は、介護保険のルールで、趣味のための外出の付き添いなどは対象外とされることが一般的です。練習やライブに出かけたいときの移動の手段は、保険外のサービスや自治体の外出支援も含めて、担当のケアマネジャーに相談してみてください。
高齢者のミュージシャンを家族が支えるには|応援の仕方と見守りのポイント
家族にとっては、「いつまで続けられるのか」「無理していないか」と心配になる場面もあるでしょう。本人の気持ちを大切にしながら、安全に続けられるよう支えるポイントを紹介します。
まずは聴きに行き、感想を伝える
発表会やライブに足を運び、「あの曲がよかった」と具体的に感想を伝えるだけで、本人の励みになります。遠方に住んでいる場合は、動画を送ってもらい、電話で感想を話すのもよい方法です。
機材の運搬や移動を手伝う
アンプやドラム、大きな楽器は重く、運ぶときに腰を痛めたり転んだりする危険があります。運搬を手伝う、キャスター付きのケースに替える、会場までの送迎を引き受けるなど、体に負担のかかる部分を家族がサポートすると安心です。ご本人が車で機材を運んでいる場合は、運転の負担や安全についても話し合っておきましょう。
「やめどき」は本人が決められるように
体力の衰えを感じたとき、家族が「もうやめたら」と言うと、本人は生きがいを奪われたように感じてしまうことがあります。加山雄三さんのように、本人が自分のペースで区切りを決められるよう、「ステージは減らしても、家で弾くのは続けよう」など、形を変えて続ける提案をしてみてください。
「危ないからやめて」ではなく、「重い機材は私が運ぶから、演奏に集中してね」「立って弾くのがつらいなら、座って弾くのはどう?」と、続けるための方法を一緒に考える言い方にすると、受け入れてもらいやすくなります。
変化に気づいたら相談を
好きだった音楽に急に興味を示さなくなった、練習の約束を何度も忘れる、といった変化が続くときは、気分の落ち込みや体の不調、認知機能の変化が隠れていることもあります。かかりつけ医に相談するとともに、介護や暮らしの困りごとは、お住まいの地域包括支援センターでも相談できます。
よくある質問
まとめ
- 100歳を超えて演奏した室井摩耶子さんのように、高齢になっても音楽を続けるミュージシャンは多い
- 音楽経験のある高齢者は聞き取る力が保たれやすい、楽器演奏者は認知症が少ない傾向がある、などの研究がある
- 耳・目・手指・体力の変化には、拡大楽譜や座っての演奏、テンポを落とすなどの工夫で対応できる
- これから始めるなら、歌・ハーモニカ・ウクレレ・大正琴など、体への負担が少ないものから
- 公民館のサークル、施設でのボランティア演奏、地域のイベントなど、活躍の場は身近にある
- 介護が必要になっても、デイサービスのレクリエーションや音楽療法、自宅で聴くことで音楽は楽しめる
- 家族は「やめさせる」より「続け方を一緒に考える」姿勢で、運搬や移動を支える
音楽は、年齢を重ねても、体が少し不自由になっても、形を変えて続けられる趣味です。そして、聴いてくれる家族がいることは、高齢のミュージシャンにとって何よりの励みになります。まずは次の発表会やいつもの練習を、ひと言「聴かせて」と頼んでみてください。
訪問介護しんらい 
