高齢者体験を手作りで|身近な材料で作る疑似体験セットと安全な進め方

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こんな疑問を持つ方へ
  • 学校の授業や地域の行事で、高齢者体験を手作りの道具でやってみたい
  • 本格的な高齢者疑似体験セットは高くて買えない、借りられる時期も合わない
  • 親の「見えにくい」「動きにくい」を、家族で一度体験して理解したい
  • 手作りでも安全に体験できるのか、どんなことに気をつければいいのか知りたい

「どうしてこんなに時間がかかるんだろう」と、高齢の家族や身近なお年寄りの動きにもどかしさを感じたことはありませんか。その答えに近づける方法の一つが高齢者体験です。この記事では、高齢者体験を手作りの道具で行う方法を、ゴーグル・耳栓・手袋・重りなど身近な材料での作り方から、家庭や教室でできる体験メニュー、安全に行うための注意点、体験後のふりかえりまで順番に解説します。

※装具の目的や貸出の条件は、2026年10月時点で確認できた社会福祉協議会などの公開資料に基づいています。

高齢者体験とは?|手作りでもできる理由と体験の目的

高齢者体験(高齢者疑似体験)とは、視力や聴力、筋力などが低下した状態を、道具を使って一時的に再現し、高齢者の体の不自由さや気持ちを体で理解する学び方です。学校の福祉学習や、介護職の研修、地域の福祉講座などで広く行われています。

高齢者体験の目的は「思いやり」と「気づき」

長崎市社会福祉協議会の手引きでは、高齢者疑似体験の目的を、体の老化を体験して不自由さや高齢者の心情を理解し、思いやりの心を育てることとしています。また、中学校の家庭分野でも、立ち上がりや歩行の介助をペアで体験し、介助する側とされる側の気持ちを話し合う活動が例として示されています(文部科学省「平成29年改訂の小・中学校学習指導要領に関するQ&A」)。

手作りでも体験できる理由

市販の高齢者疑似体験セットは、ゴーグル、耳を覆うイヤーマフ、ひじ・ひざのサポーター、手首・足首の重り、重りを入れるベスト、杖などの組み合わせでできています。一つひとつの役割はシンプルなので、身近な材料でも「見えにくさ」「聞こえにくさ」「動きにくさ」の多くは再現できます。実際、社会福祉協議会の貸出セットでも、手袋や耳栓は使い捨てのビニール手袋や市販の耳栓を使う、あるいは借りる側が自分で用意する決まりになっていることがあります。

手作りセットが向いている場面

  • 家族で体験したいとき:親の介護が始まる前に、きょうだいや子どもと一緒に体験してみる
  • 少人数の授業や自由研究:本格セットを借りるほどではない規模で試したい
  • 人数分のセットが足りないとき:借りたセットに手作りの道具を足して、待ち時間を減らす
  • 介護の新人研修:着替えや食事など、特定の動作だけを短時間で体験したい

手作り高齢者体験セットの材料一覧|家にあるもの・100円ショップで代用

まずは、加齢による体の変化と、それを再現する手作りの道具の対応を確認しておきましょう。全部をそろえる必要はありません。体験させたい内容に合わせて選んでください。

体の変化 本格セットの装具 手作りの代用品
見えにくさ(白内障・視野) 黄色いレンズのゴーグル 透明ゴーグルや保護メガネ+黄色のセロハン・半透明テープ
聞こえにくさ イヤーマフ スポンジの耳栓、耳当て、ニット帽
手先の感覚の鈍さ 手袋 使い捨てビニール手袋、軍手、ゴム手袋の重ね着け
関節の曲がりにくさ ひじ・ひざサポーター 市販のサポーター、段ボール板+包帯や面ファスナーのベルト
筋力の低下 手首・足首の重り 小さなペットボトルや砂袋を入れた布ベルト、市販のアンクルウエイト
前かがみの姿勢 重りを入れるベスト ポケットの多いベストや、軽い荷物を入れたリュックを前に抱える
歩行の不安定さ 杖 家にある杖、長さを合わせた登山用ポール

※本格セットの構成は、長崎市社会福祉協議会「児童・生徒のための高齢者疑似体験指導の手引き」などを参考にしています

ワンポイント
最初は「ゴーグル+ビニール手袋」の2つだけでも十分です。新聞を読む、小銭を数えるといった身近な動作だけで、多くの人が「思っていたより大変」と感じます。体験の幅を広げたくなったら、耳栓や重りを少しずつ足していきましょう。

【視覚・聴覚】ゴーグルと耳栓の作り方|見えにくさ・聞こえにくさを再現

見えにくさと聞こえにくさは、外からは気づかれにくい変化です。だからこそ、体験すると「話しかけても反応が遅い理由」が実感として分かります。

白内障の見え方を再現するゴーグルの作り方

健康長寿ネット(長寿科学振興財団)によると、目の中のレンズにあたる水晶体は年齢とともに黄色くにごり、進行すると常にサングラスをかけているように全体が色づいて見えるようになります。80歳代ではほぼすべての人に白内障が見られるとされています。

  1. 透明なゴーグルを用意する
    100円ショップの保護メガネや、プール用ではない透明なゴーグルが使いやすいです。メガネをかけている人は、上から着けられるタイプを選びます。
  2. 黄色のセロハンを貼る
    レンズの大きさに切った黄色のセロハンを、外側にセロハンテープで貼ります。少し茶色を重ねると、より色の区別がつきにくくなります。
  3. ぼやけを足す
    セロハンの上から、半透明のメンディングテープや薄いトレーシングペーパーを1枚重ねると、全体がかすんだ見え方になります。
  4. 視野の狭さを再現する(任意)
    レンズの周りを黒い画用紙で覆い、中央だけを丸く残すと、横から来る人や足元に気づきにくい状態を体験できます。

長崎市社会福祉協議会の手引きでは、白内障になると黄と白の区別がつきにくくなり、黒・紺・紫は見分けにくくなると説明されています。ゴーグルを着けたら、色鉛筆や靴下の色を見分けてみると違いがよく分かります。

聞こえにくさを再現する耳栓の使い方

年齢とともに起こる難聴(老人性難聴)は、高い音ほど聞き取りにくくなるのが特徴で、「さ行」「は行」「か行」の聞き違いが多くなるとされています(健康長寿ネット)。

  • スポンジの耳栓:ドラッグストアや100円ショップで手に入ります。使い捨てなので衛生的です
  • 耳当て・ニット帽:耳栓の上から重ねると、より聞こえにくくなります
  • 体験のコツ:耳栓だけでは「全部の音が小さくなる」体験になります。周りの人が早口で話す、小声で後ろから呼びかけるなどして、聞き取りにくい場面をつくってみてください

聞こえにくさは、玄関のチャイムや電話に気づけないなど、暮らしの困りごとにも直結します。家庭でできる対策は高齢者にチャイムが聞こえないとき|原因・光るチャイム・家族ができる対策を解説で紹介しています。

【手先・関節・筋力】手袋・サポーター・重りの作り方|動きにくさを再現

体の動きにくさは、手先・関節・筋力の3つに分けて再現すると、どの変化が何に影響しているのかが分かりやすくなります。

手袋で手先の感覚の鈍さを再現する

年齢とともに手の感覚が鈍くなると、小銭を出すのに時間がかかったり、つるつるした物がつかみにくくなったりします。長崎市社会福祉協議会の手引きでは、手袋に使い捨てのビニール袋(ビニール手袋)を使っています。

  • ビニール手袋:指先の感覚が鈍くなり、薄い物や小さい物がつまみにくくなります
  • 軍手:指が太くなったような感覚で、ボタンかけや折り紙が難しくなります
  • 重ね着け:ビニール手袋の上に軍手を重ねると、両方の不自由さを同時に体験できます

サポーターで関節の曲がりにくさを再現する

市販のひじ・ひざ用サポーターを着けるだけでも、関節が曲げにくくなります。手作りする場合は、薄い段ボール板をひじやひざの裏に当てて、包帯や面ファスナーのベルトで軽く固定します。血の流れを止めないよう、指が1本入るくらいのゆるさにしてください。

重りで筋力の低下を再現する

手首や足首に重りを付けると、足が思ったほど上がらず、少しの段差でもつまずきやすい状態を体験できます。

  1. 布のベルトを用意する
    手ぬぐいや幅広の布を、手首・足首に1周半ほど巻ける長さに切ります。
  2. 重りを入れる
    小さなペットボトルに水を入れたもの(350mlで約350g)や、小さな布袋に入れた砂・小豆を、布で包みます。
  3. 面ファスナーで留める
    布の端に面ファスナーを縫い付けるか、安全ピンを使わずに結んで固定します。外れて足に落ちないよう、しっかり留めましょう。

重さは、軽いものから始めて体格に合わせて調整してください。子どもや体力に不安がある人は、重りを使わず、ゴーグルや手袋だけの体験にしても十分に学びがあります。また、軽い荷物を入れたリュックを体の前に抱えると、前かがみの姿勢になり、足元ばかり見てしまう感覚も体験できます。

大切なこと
重りやサポーターに力いっぱい逆らって動くのは、体験の目的とは違います。長崎市社会福祉協議会の手引きでも「訓練ではありません」と強調されています。80歳、90歳になった自分を想像しながら、ゆっくり動いてみてください。

手作りセットでできる高齢者体験メニュー|家庭・教室で試せる例

道具がそろったら、日常の動作を体験してみましょう。特別な場所は必要ありません。いつもの家や教室で、いつもの動作をするだけで、たくさんの気づきがあります。

体験メニュー 使う道具 気づけること
新聞やチラシを読む ゴーグル 小さな文字や薄い色の文字の読みにくさ
財布から小銭を出す 手袋・ゴーグル レジで時間がかかる理由
箸で豆やおはじきをつまむ 手袋・サポーター 食事中に物を落としやすくなる理由
ペットボトルを開けてコップに注ぐ 手袋・重り ふたが開けにくい、こぼしやすい
上着を着る・ボタンをかける 手袋・サポーター 着替えに時間がかかる理由
テレビの音や会話を聞く 耳栓 聞き返しや大きな音量になる理由
廊下を歩く・段差をまたぐ 重り・ゴーグル・杖 小さな段差でつまずきやすい理由

※長崎市社会福祉協議会の体験メニュー例や、京都市社会福祉協議会の実施報告書の体験項目を参考に、家庭向けにまとめています

2人1組で、体験する人と付き添う人を交代する

体験は必ず2人1組で行い、1人は付き添い役になります。体験が終わったら役割を交代しましょう。付き添い役を経験すると、「どこで声をかければ安心するか」「手を出しすぎると、かえってやりにくい」といった、介助する側の気づきも得られます。

着替えの体験は、介護の場面を想像しやすい

ズボンや上着の着脱は、在宅介護で家族が手伝うことの多い動作です。手袋とサポーターを着けて着替えてみると、ゆっくりにしかできない理由が分かります。介助のコツは高齢者がズボンをあげられない原因と対策!介助のコツでも紹介しています。

手作りの高齢者体験を安全に行うための注意点|付き添い・時間・体調確認

手作りの道具は手軽な反面、本格セットのように安全面を考えて作られているわけではありません。次のポイントを必ず守ってください。

着け外しは椅子に座って行う

長崎市社会福祉協議会の手引きでは、装具の着脱は椅子に座って行い、装着中も床には座らず椅子に座るよう注意しています。重りやゴーグルを着けた状態で立ったまま着け外しをすると、バランスを崩しやすくなります。

階段や段差では、付き添い役が支える位置に立つ

同じ手引きでは、階段を下りるときは半歩先で、上るときは横に並んで介助するよう示されています。家庭で行う場合は、階段の体験は避け、平らな廊下や低い段差だけにしておくと安心です。

体調と時間に気をつける

  • 体調の確認:体調が悪い人、けがや持病のある人、妊娠中の人は、重りや歩行の体験を控え、座ってできる体験にします
  • 時間の目安:長崎市社会福祉協議会の例では、2人1組で装具を着けて体験し、外すまでを約30分で交代しています。疲れたら途中でも外しましょう
  • 暑さに注意:ゴーグルやベストを着けると汗をかきやすくなります。夏場は水分補給と休憩をこまめにとってください
  • 衛生面:耳栓やビニール手袋は1人ずつ使い捨てにし、ゴーグルは使うたびに拭きます

周りの安全を確保する

体験する場所の床に物を置かない、走らない、ほかの人とぶつからない広さを確保する、といった基本も大切です。ゴーグルで視野が狭くなっているので、付き添い役は常にすぐ横にいるようにしてください。

高齢者体験のふりかえり|「大変だった」で終わらせない伝え方

高齢者体験で一番大切なのは、実は体験のあとです。ふりかえりの時間を10分ほど取って、感じたことを言葉にしましょう。

「楽しかった」「かわいそう」で終わらせない

長崎市社会福祉協議会の手引きでは、感想が「楽しかった」だけでも、「お年寄りはたいへんだ、自分は体が動いてよかった」だけでも、正しい理解とはいえないとしています。体験を通して、「できないこと」ではなく「どうすれば暮らしやすくなるか」に目を向けることが大切です。

ふりかえりで投げかけたい問い

  • いつもの部屋や廊下は、道具を着けたらどう見えた?
  • どんな声かけやサポートがあったら、うれしかった?
  • 家や町の中で、段差や読みにくい表示など、困りそうな場所はどこ?
  • 手すりや大きな文字の表示は、ほかの人にとっても便利だろうか?

最後の問いは、誰にとっても使いやすい「ユニバーサルデザイン」の考え方につながります。

家族で体験したら、親との関わり方を話し合う

家族で体験した場合は、「お母さんの『もう少しゆっくり話して』は、こういうことだったんだね」と、普段の場面に結びつけてみてください。高齢の親の言動が「わがまま」に見えるとき、その裏に体の変化が隠れていることも少なくありません。気持ちの受けとめ方は介護で「わがまま」に疲れたら?高齢者の本音と上手な対応法も参考にしてください。

伝え方の例
体験のことを本人に話すときは、「年をとるとこんなに不便なんだね」ではなく、「こうしたら楽になるかな」と提案の形で伝えてみてください。「照明を明るくしてみようか」「話すときは正面からにするね」など、具体的な工夫として伝えると、本人も受け入れやすくなります。

本格的な高齢者体験セットを借りたいときは|社会福祉協議会などの貸出

大人数で体験したい、階段や段差を含めたしっかりした体験をしたい、という場合は、本格的な高齢者疑似体験セットを借りる方法もあります。多くの地域で、都道府県や市区町村の社会福祉協議会、介護実習・普及センターなどが貸出を行っています。

貸出のおもな条件の例

たとえば京都市社会福祉協議会の大人用セット(中学生以上対象)は、次のような条件です(令和7年9月一部改正の貸出規程)。

  • 対象は京都市内の介護・福祉・医療関係機関と教育機関
  • 予約制で、貸出期間は原則7日間、貸出は無料(運搬費は借りる側の負担)
  • 初めて借りる場合は、目的・使い方・安全面について約30分の説明を受ける
  • 耳栓とビニール手袋は借りる側が用意する

同じ京都市社会福祉協議会では、小学生用のセットも別に用意されています。対象や期間、申込方法は地域によって異なるので、お住まいの地域の社会福祉協議会に問い合わせてみてください。個人や家族単位では借りられないことも多いため、その場合は手作りの道具が役立ちます。

手作りと本格セットを組み合わせる

本格セットは数に限りがあります。借りたセットで歩行や階段の体験をし、待っている人は手作りのゴーグルや手袋で手先の体験をする、という組み合わせにすると、大人数でも待ち時間を減らせます。

よくある質問

Q. 手作りの道具だけでも、高齢者体験の意味はありますか?
A. あります。ゴーグルとビニール手袋だけでも、文字の読みにくさや小銭の出しにくさを実感できます。大切なのは道具の本格さよりも、体験後に「どうすれば暮らしやすくなるか」を話し合うことです。
Q. 小学生でも体験できますか?
A. できます。ただし、重りを使った歩行や階段の体験は転倒の危険があるため、必ず大人が付き添い、低学年はゴーグルや手袋など座ってできる体験を中心にするのがおすすめです。小学生用のセットを貸し出している社会福祉協議会もあります。
Q. 体験にはどのくらいの時間が必要ですか?
A. 長崎市社会福祉協議会の例では、説明に約15分、2人1組で交代しながらの体験に約30分ずつ、ふりかえりに約10分としています。家庭なら、1つの動作を5〜10分ほど試すだけでも十分です。
Q. 高齢の親本人に体験の話をしても大丈夫ですか?
A. 伝え方に気をつければ大丈夫です。「年寄り扱い」と受け取られないよう、「あなたの見え方を知りたかった」「もっと手伝いやすくしたい」という気持ちを添えて伝えてみてください。本人から「実はこれが困っている」と話してくれるきっかけになることもあります。
Q. 体験してみて、親の介護が心配になりました。どこに相談すればいいですか?
A. お住まいの地域の地域包括支援センターに相談できます。すでに介護サービスを使っている場合は、担当のケアマネジャーに相談してください。見え方や聞こえ方の変化が気になるときは、眼科や耳鼻咽喉科の受診もすすめてみましょう。

まとめ

  • 高齢者体験は、視力・聴力・筋力などの変化を道具で再現し、高齢者の気持ちを理解する学び方
  • 黄色いセロハンのゴーグル、耳栓、ビニール手袋、サポーター、布の重りなど、身近な材料で手作りできる
  • 新聞を読む、小銭を出す、着替えるなど、いつもの動作を体験するだけで多くの気づきがある
  • 着け外しは椅子に座って行い、必ず2人1組で付き添い役をつける
  • 重りは軽いものから。家庭では階段の体験は避け、疲れたらすぐに外す
  • 体験後のふりかえりで「どうすれば暮らしやすくなるか」を話し合うことが一番大切
  • 大人数で行うときは、社会福祉協議会などの貸出セットと組み合わせるのもおすすめ

高齢者体験は、遠い未来の自分や、身近な家族の毎日を少しだけのぞいてみる体験です。立派な道具がなくても大丈夫です。まずは黄色いセロハンを貼ったゴーグルとビニール手袋を用意して、家族と一緒に新聞を読むところから始めてみてください。

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