高齢者がズボンをあげられない原因と対策!介助のコツ

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トイレには自分で行けるのに、最後のひと工程だけができない。高齢者がズボンをあげられない背景には、握力だけでなく肩や姿勢、バランスなど複数の要因が重なっています。どこでつまずいているのかが分かれば、衣類や道具の工夫で「自分でできる」を取り戻せます。

こんな疑問を持つ方へ

  • 下ろすことはできるのに、上げるときだけ手が止まってしまう
  • どこまで手を貸せばいいのか、毎回迷ってしまう
  • 間に合わずに失敗することが増え、本人が落ち込んでいる
  • 立ったまま着替えていて、ふらつくのが怖い
  • 介護保険で使える道具や制度があるのか知りたい

高齢者がズボンをあげられない6つの原因

高齢者がズボンをあげられない6つの原因

ズボンを引き上げるという動作は、一見単純に見えて、手の力・肩の動き・姿勢・バランス・段取りの理解が同時に必要な複合動作です。どれか一つが欠けるだけで成立しなくなります。ご本人やご家族に当てはまるものがないか、確認してみてください。

1. 握力・つまむ力の低下

ウエストの生地をしっかりつかんで引き上げるには、指先だけでなく手のひら全体の力が要ります。力が弱くなると生地が途中で滑り落ち、何度も持ち直すことになります。筋肉量と筋力が落ちる状態を「サルコペニア」と呼び、アジア地域の診断基準(AWGS2019)では握力が男性28キログラム未満、女性18キログラム未満を筋力低下の目安としています。

2. 肩や腕が後ろに回らない

おしり側の生地を引き上げるには、腕を背中側へ回す動きが必要です。肩関節の動く範囲が狭くなると、手がおしりの位置まで届かず、前側だけが上がって後ろが下がったままになります。

3. 円背(背中が丸くなる)による姿勢の変化

背中が丸くなると重心が前に寄り、立った姿勢でお腹や腰まわりに手を回しづらくなります。ウエストの位置そのものが変わるため、若い頃と同じ動かし方では届かなくなります。

4. 片麻痺など、片手しか使えない

脳卒中の後遺症などで片側が動かしにくい場合、本来は左右の手で同時に引き上げる動作を、片手で交互に行わなければなりません。麻痺側の足がズボンに引っかかることもあり、時間と労力が大きく増えます。

5. 立ったままの「二重課題」でバランスが崩れる

立っていること自体に体力を使いながら、同時に腕でズボンを操作するのは、バランス機能が落ちた方には高い負荷です。立つことに集中すると手が止まり、手を動かそうとすると体が揺れる。これが「立つとできないのに、座るとできる」という現象の正体です。

6. 段取りの理解と、間に合わない焦り

衣服と自分の体の位置関係をつかむ力や、手順を追う力が落ちると、どこを持てばよいか分からなくなることがあります。さらに「漏れてしまう」という切迫感が加わると注意が散り、動作の失敗や転倒のリスクが跳ね上がります。

原因 気づきのサイン 効きやすい工夫
握力の低下ペットボトルの蓋が開けにくい/生地が滑り落ちるウエストにループを付ける
肩の可動域前だけ上がり、後ろが下がったまま下衣引き上げ棒、前で左右交互に
円背立つと手が腰に届きにくい座った姿勢で途中まで済ませる
片麻痺麻痺側の足が引っかかるゴムウエスト、ゆとりのある形
バランス立つと手が止まる、体が揺れる手すり、座位で完結させる配置
段取り・焦りどこを持つか迷う/急ぐと失敗する早めの誘導、着脱しやすい服

「下ろせるのに上げられない」のはなぜ?動作を5工程に分けて見る

「下ろせるのに上げられない」のはなぜ?動作を5工程に分けて見る

介護のQ&Aサイトには、介護職から「下ろすことはできても上げられない人が多いのはなぜか」という投稿が寄せられており、専門職向けの記事でも繰り返し取り上げられるテーマです。理由はシンプルで、下ろす動作は重力が味方をしてくれるのに対し、上げる動作は重力と生地の摩擦の両方に逆らう必要があるからです。

そこで役立つのが、動作を工程に分けて「どこで止まっているか」を見つける方法です。原因を漠然と考えるより、つまずいている一箇所を特定したほうが、対策はずっと早く決まります。

工程 必要な力 ここで止まる場合の対策
1 ウエストをつまむ握力・つまむ力ループを縫い付ける/厚みのある生地に変える
2 座ったまま太ももまで上げる前かがみの姿勢・腕の力足を組んで通す/リーチャーなどの自助具
3 立ち上がる脚の筋力・バランス手すりの設置/座面の高い椅子や便座
4 おしりを越えさせる肩の可動域・両手の協調すべりの良い生地/ヒップにゆとりのある形
5 ウエストを整える立ったままの手作業(二重課題)壁や手すりに寄りかかって支持面を増やす
ワンポイント:まず「座位で工程2まで」を試す 便座に座っている間にウエストを太ももの位置まで上げておき、立ち上がる勢いを利用して一気に引き上げる。この順番に変えるだけで、立っている時間が短くなり、成功率と安全性の両方が上がります。ただし勢いに頼りすぎると後ろや横に倒れる危険があるため、必ず支えになるものを確保してください。

衣類・自助具・環境の工夫で、ここまで変わる

衣類・自助具・環境の工夫で、ここまで変わる

履きやすいズボンの選び方

市販品の中には、おしりに引っかかりにくい生地を使い、ウエストの内側と外側で素材を変えて引き上げやすくしたものや、リハビリテーション病院と共同開発されたものもあります。買い替えを考える場合は、次の点を見てください。

  • ウエストがゴムで、締めつけを調整できる
  • ヒップまわりにゆとりがある(サルエルパンツのような形も有効)
  • 生地がやわらかく、すべりが良い
  • 硬いボタンや金属ファスナーが前面にない
  • 車いすを使う場合は、座った姿勢で丈とウエストが合うもの

今ある服を活かす「ループ」という選択

もっとも手軽で効果が高いのが、今履いているズボンのウエストや脇に、手芸用のテープで輪(ループ)を縫い付ける方法です。親指や杖の先をループに通して引くだけで済むため、指先の細かい動きが難しい方でも、少ない力で引き上げられます。着慣れた服をそのまま使えるので、本人の抵抗感が少ないのも利点です。

自助具を使う

腰を曲げにくい方には、長い柄の先にフックが付いた「下衣引き上げ棒(ズボンエイド)」が向いています。立ったままでも座ったままでも、かがまずに引き上げられます。ただし「棒でズボンを引っかける」という手順そのものの習得が必要なため、認知機能の低下がある方には事前の練習が欠かせません。床の物を拾うリーチャーや、靴下用のソックスエイドも、更衣全体の負担を下げます。

環境を整える

手すりの位置、便座の高さ、床のすべりにくさは、動作そのものと同じくらい結果を左右します。立位での操作が危険だと判断される場合は、無理に立って行う必要はありません。手すり付きの椅子やポータブルトイレを使い、座ったまま下衣操作を完結させる配置に切り替えるのも、有効な戦略です。

介助する人が押さえたい手順とコツ

介助する人が押さえたい手順とコツ

「全部やってあげない」部分介助を基本に

介助の目的は、着せ替えを終わらせることではなく、できる部分を残すことです。ウエストをつまむところまでは本人、おしりを越えるところだけ介助者、というように工程で分担すると、本人の力が維持されやすくなります。声をかけながら、できることは自分でしてもらうのが基本です。

後ろから急に引き上げない

介助者が背後から勢いよく引き上げると、本人の重心が後方に持っていかれ、バランスを崩します。横に立ち、体を支える手と引き上げる手を分けて、少しずつ左右交互に上げていくほうが安全です。

座っている時間を味方にする

立っている時間が長いほど転倒リスクは上がります。座っているうちに準備を終わらせる、立ち上がりは一度で済ませる。この二つを意識するだけで、介助する側の腰の負担も軽くなります。

やりがちな関わりで、避けたいこと 急かす言葉をかける/本人の手を押しのけて代わりにやってしまう/「またできないの」と結果だけを指摘する。いずれも、次からやろうとする気持ちを削いでしまいます。時間がかかる日があっても、できた工程を言葉にして返すほうが、結果的に自立につながります。

放っておくと起こる2つのリスク

放っておくと起こる2つのリスク

立ったままの着替えは、転倒の入り口になる

ズボンを上げる途中は、片足立ちや体をひねる瞬間が必ず生まれます。転倒は骨折につながり、そこから要介護状態に進むことも珍しくありません。

データで見る転倒の実態

東京消防庁の管内では、2024年(令和6年)中に「ころぶ」事故で73,500人の高齢者が救急搬送されました。住宅等の居住場所で起きた42,180人のうち、屋内での発生が39,053人と9割以上を占めています。発生場所の上位は居室・寝室(29,783人)、玄関・勝手口等(3,900人)、廊下・縁側・通路(2,653人)、トイレ・洗面所(1,229人)の順です。「ころぶ」事故のうち約4割は、入院が必要な中等症以上と診断されています。

厚生労働省の2025年(令和7年)国民生活基礎調査では、介護が必要となった主な原因のうち、要介護者では「骨折・転倒」が14.8パーセントで第2位、要支援者でも14.7パーセントで第3位に入っています。

「間に合わない」が失禁につながる

排尿の機能そのものには問題がないのに、手足が不自由で衣服の上げ下げに時間がかかり、間に合わずに漏れてしまう状態を「機能性尿失禁」と呼びます。排尿機能以外の障害によって起こるタイプで、高齢者の尿失禁では、この機能的な要素がまったく関係しないケースはまれだとされています。

つまり、ズボンの上げ下げにかかる時間を短くすることは、失禁対策そのものでもあります。衣類を変える、自助具を使う、トイレへの誘導を早めるといった工夫は、本人の尊厳を守ることにも直結します。実際、排泄のときの衣類の上げ下げは、厚生労働省が整理する介護現場の課題リストにも、自立意欲の確保と介護負担の軽減という観点から挙げられています。

自分でできる状態を保つための体づくり

自分でできる状態を保つための体づくり

道具や衣類で補うことは有効ですが、それだけに頼ると身体機能は落ちていきます。道具は「今の力を最大限に活かすための手段」と考え、並行して体を使う機会を持つのが理想です。

弱っている部分 日常の中でできること
握力・つまむ力タオルを絞る、洗濯ばさみを使う、布巾で机を拭く
肩の動き高い位置の物を取る、髪をとかす動作を毎日続ける
脚の筋力・バランス椅子からの立ち座りを回数を決めて行う
体幹座った姿勢で軽く前後左右に体を傾ける

デイサービスなどで、立ったままお茶を入れる、机を拭くといった役割のある活動に参加することも、そのまま上肢と立位の練習になります。痛みがある場合や持病がある場合は、自己判断で始めず、理学療法士や作業療法士、主治医に相談してください。

介護保険で使えるもの、使えないもの

介護保険で使えるもの、使えないもの

制度の範囲を知っておく

手すりの設置などは介護保険の住宅改修として申請でき、支給限度基準額は原則20万円です。一方、福祉用具の購入費(特定福祉用具販売)は、4月1日からの1年間で10万円が上限となります。いずれも所得に応じた自己負担分があります。

項目 扱い 上限の目安
トイレへの手すり設置住宅改修の対象原則20万円
腰掛便座・入浴補助用具など特定福祉用具販売の対象年間10万円
リーチャー・ズボンエイドなどの自助具貸与・販売の対象種目に含まれない自費購入が原則
ループ付きなどの衣類対象外自費購入

自助具や衣類は数千円から手に入るものも多く、手すりの設置より先に試す価値があります。利用できる制度があるかどうかは、担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに確認するのが確実です。

リハビリ専門職に評価してもらう

どの工程でつまずいているかを正確に見極めるのは、本来はリハビリ専門職の仕事です。理学療法士は立位バランスや脚の筋力、手すりの位置といった土台と環境を、作業療法士は自助具の選定や衣服の加工、手順の定着を担当します。訪問リハビリや通所リハビリを利用している場合は、「トイレでの下衣操作を自分でできるようにしたい」と具体的に伝えてみてください。

よくある質問

Q1. 下ろすことはできるのに、上げることだけができないのはなぜですか

下ろす動作は重力が助けてくれますが、上げる動作は重力と生地の摩擦の両方に逆らう必要があるためです。加えて、おしりを越えさせる場面では腕を背中側へ回す動きが求められます。肩の動く範囲が狭くなっている方は、この一点だけができず、前側は上がっているのに後ろが下がったままになります。

Q2. ズボンを引き上げる自助具は、介護保険で買えますか

リーチャーや下衣引き上げ棒といった自助具は、介護保険の福祉用具貸与・特定福祉用具販売の対象種目に含まれていないため、自費での購入が基本です。数千円程度で購入できるものが多く、まずは試しやすい価格帯といえます。利用できる支援がないかは、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談してみてください。

Q3. 立ったまま着替えるのと、座ったまま着替えるのは、どちらが安全ですか

バランスに不安がある方は、座ったまま行うほうが安全です。立位での下衣操作は転倒リスクが高いと判断された場合、無理に立って行う必要はありません。手すり付きの椅子やポータブルトイレを活用し、座った姿勢で完結させる配置に切り替えることも、現実的で有効な選択肢です。

Q4. 要介護認定では、ズボンの上げ下げはどう評価されますか

要介護認定の認定調査には「ズボン等の着脱」という項目があり、また「排尿」の項目にも、ズボンやパンツの上げ下げを含む一連の排尿動作が含まれています。実際に行われている介助の状況をもとに判断されるため、調査の際は普段の様子をそのまま伝えることが大切です。

Q5. 家族だけで抱えきれないときは、どこに相談すればよいですか

介護保険を利用中であれば担当のケアマネジャー、まだ利用していなければお住まいの地域包括支援センターが最初の窓口になります。2025年(令和7年)国民生活基礎調査では、在宅で要介護・要支援の方がいる世帯のうち単独世帯が33.2パーセントを占め、同居して介護している方との年齢の組み合わせは65歳以上同士が61.9パーセントに達しています。家族だけで担うことが難しくなっている状況は、決して特別ではありません。

まとめ

  • ズボンを上げられない背景には、握力、肩の可動域、円背、片麻痺、立位バランス、段取りの理解という6つの要因が重なっている
  • 原因を漠然と考えるより、「つまむ・座って上げる・立つ・おしりを越える・整える」の5工程のどこで止まるかを見極めると、対策が決まりやすい
  • もっとも手軽で効果が高いのは、今あるズボンのウエストにループを縫い付けること。次に、下衣引き上げ棒などの自助具と、ゆとりのある衣類への変更
  • 立位での操作が危険なら、座ったまま完結させる配置に切り替えてよい。安全が最優先
  • 介助は「全部やる」のではなく、工程で分担する部分介助を基本に。後ろから急に引き上げない
  • 着替えに時間がかかることは、転倒と機能性尿失禁の両方につながる。放置せず早めに手を打つ
  • 手すりは住宅改修(原則20万円)、腰掛便座などは特定福祉用具販売(年間10万円)の対象。自助具や衣類は自費が原則
  • どの工程でつまずいているかの評価は、理学療法士・作業療法士に依頼できる。ケアマネジャーや地域包括支援センターに具体的な目標を伝えることから始める

本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。身体の状態や持病によって適切な方法は異なるため、運動や道具の導入にあたっては、主治医やリハビリ専門職にご相談ください。

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