在宅介護はなぜ推進される?国の理由と家族が限界を感じる本当の訳

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在宅介護はなぜ国から推進され、その一方でなぜ多くの家族が「つらい」と感じるのでしょうか。公的データをもとに、自宅での介護が勧められる背景と家族にかかる負担の実態、無理なく続けるための制度や判断の目安までを順に解説します。

こんな疑問を持つ方へ

  • 施設に入れたいのに「まずは在宅で」と言われ、納得できずにいる
  • 国がなぜ自宅での介護を勧めるのか、理由を知りたい
  • 親の介護がつらく、このまま家で看続けられるか不安がある
  • 施設を選ぶことに後ろめたさを感じている
  • 介護職として、家族に在宅介護の意味をうまく説明したい

在宅介護はなぜ推進されているのか?国が「自宅で」を勧める4つの理由

在宅介護はなぜ推進されているのか?国が「自宅で」を勧める4つの理由

国が在宅介護を推進する背景には、高齢化による費用の増加、施設と人材の不足、そして本人の希望という複数の事情が重なっています。まずは全体像を表で確認しましょう。

理由 背景にあるデータ
1. 介護費用の増加2024年度の介護保険の給付費用額は約12.1兆円。制度が始まった2000年度(11か月分)の約3.6兆円から大きく増えた
2. 施設と人材の不足特養の入所申込者(要介護3以上)は2025年4月時点で20.6万人。介護職員は2040年度に約272万人が必要と推計されている
3. 本人の希望65歳以上に最期を迎えたい場所を尋ねた調査では「自宅」が45.8%で最多
4. 地域包括ケアシステム住み慣れた地域で医療・介護・生活支援を一体的に受けられる体制づくりを、2025年を目途に進めてきた

理由1:高齢者の増加で介護費用が膨らみ続けている

要介護・要支援の認定を受けた人は、2025年3月末時点で721万人に達しました。2024年度の介護保険の給付費用額は約12兆952億円と、過去最高を更新しています。

介護保険は、税金と40歳以上の人が払う保険料で支えられています。一般に施設での介護は住まいや食事、24時間の見守りを含むため、1人あたりの費用が高くなりがちです。限られた財源で多くの人を支えるため、国は「必要な人には施設を、それ以外の人には在宅でのサービスを」という方向に重点を移してきました。

理由2:施設の数と介護職員が足りない

特別養護老人ホーム(特養)は、費用が比較的抑えられる公的な介護施設です。2025年4月1日時点の入所申込者は、要介護3以上で20.6万人、そのうち自宅で入所を待っている人は8.6万人でした。2022年の調査(25.3万人)からは減っていますが、依然として多くの人が順番を待っています。

さらに深刻なのが人手です。介護職員は2022年度の約215万人に対し、2026年度には約240万人、2040年度には約272万人が必要と推計されています。建物を増やしても働く人が足りなければ運営できないため、施設を大きく増やすことには限界があります。

ワンポイント:特養は原則「要介護3以上」

  • 2015年4月から、特養の新規入所は原則として要介護3〜5の人に限られています
  • 要介護1・2の人は、やむを得ない事情がある場合の「特例入所」の対象です
  • このため、介護が始まったばかりの段階では在宅介護が前提になりやすいのです

理由3:「住み慣れた家で暮らしたい」という本人の希望

在宅介護の推進は、財政の都合だけで進められているわけではありません。内閣府が65歳以上を対象に行った2023年度の調査では、治る見込みのない病気になった場合に最期を迎えたい場所として「自宅」が45.8%で最も多く、「病院・介護療養型医療施設」の36.3%を上回りました。

一方、2023年に実際に亡くなった場所は病院が64.4%、自宅は17%でした。希望と現実の間に大きな差があり、この差を縮めることも在宅介護を推進する目的のひとつです。

理由4:地域包括ケアシステムという国の方針

地域包括ケアシステムとは、介護が必要になっても住み慣れた地域で暮らし続けられるよう、「住まい」「医療」「介護」「介護予防」「生活支援」を一体的に提供する仕組みです。団塊の世代が全員75歳以上になる2025年を目途に、市区町村ごとに整備が進められてきました。

ここで大切なのは、この仕組みが前提とするのは「家族だけで介護すること」ではなく、「専門職のサービスや地域の支えを組み合わせて自宅での生活を続けること」だという点です。この考え方は後ほど詳しく説明します。

家族はなぜ在宅介護を選ぶのか?主な理由と費用の違い

家族はなぜ在宅介護を選ぶのか?主な理由と費用の違い

国の方針とは別に、家族の側にも在宅介護を選ぶ理由があります。代表的なものを整理しました。

選ぶ理由 よくある状況
本人が家を望んでいる「施設には行きたくない」と強く希望している
費用を抑えたい年金の範囲で介護費をまかないたい
施設に空きがない申し込みはしたが入所まで待つ必要がある
まだ要介護度が軽い見守りや一部の手助けで生活できている
家族の気持ちできるだけそばで支えたいと考えている

在宅と施設では月々の費用に約2.6倍の差

生命保険文化センターの2024年度の調査によると、介護にかかる月々の費用(介護保険の自己負担を含む)は、在宅で平均5.3万円、施設で平均13.8万円でした。

在宅:平均5.3万円/月

施設:平均13.8万円/月

このほか、住宅の改修や介護用ベッドの購入など、介護が始まるときの一時的な費用が平均47.2万円かかっています。在宅介護は月々の出費を抑えやすい反面、家族の時間や労力という「お金以外のコスト」がかかる点を忘れてはいけません。

なぜ在宅介護は「つらい」「限界」と言われるのか

なぜ在宅介護は「つらい」「限界」と言われるのか

国が推進し、本人も望んでいる在宅介護ですが、介護する家族からは「もう限界」という声が少なくありません。その理由をデータから見ていきます。

介護の担い手の多くが同居の家族、しかも高齢者

厚生労働省の2022年の調査では、在宅介護の主な介護者は「同居の家族等」が45.9%で最も多く、内訳は配偶者22.9%、子16.2%、子の配偶者5.4%でした。介護サービス事業者が主な介護者となっているのは15.7%にとどまります。

同居の介護者と要介護者の年齢の組み合わせ 割合
60歳以上同士77.1%
65歳以上同士(いわゆる老老介護)63.5%
75歳以上同士35.7%

厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」

同居して介護する人の約7割(68.9%)は女性です。高齢の配偶者や、仕事を持つ娘・息子の妻に負担が集中しやすい構造が見えてきます。

要介護度が上がるほど「ほぼ一日中」の介護に

同居の主な介護者の介護時間は、全体では「必要なときに手をかす程度」が45.0%で最多です。しかし要介護5になると、63.1%が「ほとんど終日」介護をしています。夜間の排せつ介助などで睡眠が細切れになり、心身ともに疲れ切ってしまうケースも珍しくありません。

悩みやストレス、そして介護離職

同居の介護者のうち、日常生活で悩みやストレスが「ある」と答えた人は男性で53.9%、女性で63.8%に上ります。原因として最も多いのは「家族の病気や介護」です。

仕事との両立も大きな壁です。2022年の就業構造基本調査では、介護をしている人は約629万人で、そのうち約365万人が働きながら介護をしています。一方で、介護・看護を理由に1年間で仕事を辞めた人は10.6万人に達しました。

ワンポイント:介護は「長期戦」

  • 介護を行った期間は平均55.0か月(4年7か月)
  • 4年を超えて介護した人は約4割
  • 最初から全力で抱え込むと、長い期間を乗り切れなくなります

「在宅介護=家族がすべて担う」は誤解!国が描く本来の姿

「在宅介護=家族がすべて担う」は誤解!国が描く本来の姿

ここまで見ると、「国は家族に介護を押しつけているのでは」と感じるかもしれません。実際、推進する側の理屈と介護する側の実感には大きなずれがあります。

国が描く在宅介護 家族が感じている現実
専門職のサービスを組み合わせて自宅で暮らす家族が中心となり、サービスは補助的
医療・介護・地域が連携して支えるどこに相談すればよいかわからない
本人の希望をかなえる家族の生活や仕事が犠牲になる

このずれを生む大きな原因は、「在宅介護」という言葉が「家族介護」と同じ意味で受け取られていることです。地域包括ケアシステムが想定しているのは、訪問介護や訪問看護、デイサービス、ショートステイ、訪問診療などを組み合わせ、家族は「できる範囲で関わる」形です。

つまり在宅介護がつらくなったとき、それは家族の努力不足ではなく、サービスの組み合わせが合っていないサインと考えることができます。ケアマネジャーにケアプラン(介護サービスの利用計画)の見直しを相談することが、負担を減らす第一歩です。

在宅介護を続けるか、施設を考えるか?判断の目安

在宅介護を続けるか、施設を考えるか?判断の目安

在宅介護には向き不向きがあり、どちらが正解ということはありません。次のような状況が重なってきたら、施設の検討や申し込みを始める目安と考えてください。

見るポイント 在宅を続けやすい 施設の検討を始めたい
介護者の健康睡眠がとれ、体調を保てている不眠や持病の悪化、気分の落ち込みが続く
介護の内容見守りや一部の介助が中心夜間の介助や医療的ケアが毎日必要
認知症の症状声かけで落ち着いて過ごせる徘徊や昼夜逆転で目が離せない
仕事や生活サービス利用で両立できている退職や休職を考え始めている
介護者の気持ちつらい日もあるが続けたいと思える本人に強くあたってしまうことがある

特養などは入所まで時間がかかることがあるため、「まだ大丈夫」なうちに見学や申し込みをしておくのも一つの方法です。申し込んでおくことと、すぐ入所することは別の話なので、選択肢を確保しておく意味があります。

ワンポイント:施設を選ぶことは「見捨てること」ではない

  • 施設に入っても、面会や外出などで家族の関わりは続けられます
  • 介護者が倒れてしまえば、本人の生活も守れなくなります
  • 本人と家族の両方が穏やかに過ごせる形を選ぶことが大切です

在宅介護の負担を減らすために使えるサービスと制度

在宅介護の負担を減らすために使えるサービスと制度

介護保険のサービスは、原則1割(所得に応じて2割または3割)の自己負担で利用できます。在宅介護で使える主なサービスをまとめました。

サービス 内容 こんな悩みに
訪問介護ヘルパーが自宅で入浴・排せつ・食事などを手助け身体介助が大変
訪問看護看護師が自宅で健康管理や医療的ケアを行う病気の管理が不安
通所介護(デイサービス)日中に施設へ通い、入浴や食事、機能訓練を受ける日中の見守りが難しい
短期入所(ショートステイ)数日から施設に泊まって介護を受ける介護者が休みたい、用事がある
小規模多機能型居宅介護通い・訪問・泊まりを同じ事業所で柔軟に利用状態が変わりやすい
福祉用具の貸与・購入介護ベッドや車いすなどを借りる・買う移動や起き上がりが不安
住宅改修手すりの取り付けや段差の解消家の中での転倒が心配

最初の相談先は地域包括支援センター

「何から始めればいいかわからない」という場合は、住んでいる地域の地域包括支援センターに相談しましょう。高齢者の介護や生活に関する総合窓口で、要介護認定の申請方法やサービスの使い方を無料で教えてもらえます。すでにケアマネジャーがいる場合は、困りごとを率直に伝えることが大切です。

働く人は介護休業などの両立支援制度を活用

会社員などが利用できる介護休業は、対象家族1人につき通算93日まで、3回に分けて取得できます。休業中は雇用保険から、休業前賃金の67%にあたる介護休業給付金を受け取れます。

また、育児・介護休業法の改正により、2025年4月から事業主には、介護に直面したことを申し出た労働者に対して両立支援制度を個別に知らせ、利用の意向を確認することが義務づけられました。介護休業は「自分で介護するための休み」というより、「介護の体制を整えるための期間」として使うのがおすすめです。

介護職・ケアマネが家族に「なぜ在宅か」を伝えるときのポイント

介護職・ケアマネが家族に「なぜ在宅か」を伝えるときのポイント

介護の現場では、家族から「なぜ施設に入れてもらえないのか」「なぜ家で看なければならないのか」と問われることがあります。説明の際は、次の3点を意識すると伝わりやすくなります。

「国の都合」ではなく「本人の暮らし」から話す

財政や施設不足の話から入ると、家族は「押しつけられている」と感じやすくなります。まずは本人がどんな暮らしを望んでいるかを一緒に確認し、そのうえで制度の事情を補足する順番が効果的です。

家族がやらなくてよいことを具体的に示す

「在宅介護=家族がすべてやる」と思い込んでいる家族は少なくありません。入浴は訪問介護やデイサービスに任せる、休息のためにショートステイを定期的に入れるなど、プロに任せられる部分を具体的に示すと、家族の不安は大きく和らぎます。

「いつでも見直せる」と伝える

在宅か施設かは一度決めたら終わりではありません。状態や家族の状況が変われば、ケアプランも住まいも見直せることを伝えておくと、家族は安心して在宅介護を始めやすくなります。

在宅介護に関するよくある質問

Q1. 在宅介護と施設介護、費用はどちらが安いですか?

月々の平均費用は在宅が5.3万円、施設が13.8万円で、在宅のほうが安くなる傾向です。ただし在宅でも、要介護度が高くサービスを多く使う場合は費用が増えます。また、家族の時間や仕事への影響も含めて考えることが大切です。

Q2. 特養にはなぜすぐ入れないのですか?

特養は費用が比較的抑えられることから希望者が多く、2025年4月時点で要介護3以上の申込者が20.6万人いました。入所は原則として要介護3以上が対象で、申し込み順ではなく、介護の必要性や家族の状況などから優先度が判断されるのが一般的です。地域によって待機状況は大きく異なるため、地域包括支援センターなどに確認しましょう。

Q3. 在宅介護はどのくらいの期間続きますか?

介護を行った期間の平均は55.0か月(4年7か月)で、4年を超えた人が約4割います。数年単位で続く前提で、最初から無理のない体制をつくることが重要です。

Q4. 仕事を辞めずに在宅介護を続けることはできますか?

介護休業(通算93日、3回まで分割可)や介護休暇などの制度に加え、介護保険サービスを組み合わせることで両立している人は多くいます。介護休業の期間は、ケアマネジャーとの打ち合わせやサービスの手配など、体制づくりに使うと効果的です。まずは勤務先の人事担当に相談してみましょう。

Q5. 自宅で看取ることはできますか?

訪問診療を行う医師や訪問看護と連携すれば、自宅での看取りは可能です。2023年には亡くなった人の17%が自宅で最期を迎えています。希望がある場合は、早めにかかりつけ医やケアマネジャーに伝え、急変時の対応も含めて話し合っておくと安心です。

まとめ:在宅介護の「なぜ」を知り、家族だけで抱え込まない

  • 国が在宅介護を推進する理由は、介護費用の増加、施設と介護人材の不足、本人の「家で暮らしたい」という希望、地域包括ケアシステムの方針の4つ
  • 家族が在宅介護を選ぶ背景には、本人の希望や費用、施設の空き状況がある。月々の平均費用は在宅5.3万円、施設13.8万円
  • 在宅介護がつらいと言われるのは、同居家族への負担集中、老老介護、長い介護期間、仕事との両立の難しさが重なるため
  • 国が描く在宅介護は「家族だけの介護」ではなく、専門職のサービスと地域の支えを組み合わせるもの
  • 介護者の健康や生活が保てなくなってきたら、施設の検討は前向きな選択肢。早めの情報収集が安心につながる
  • 迷ったときは地域包括支援センターやケアマネジャーに相談し、介護休業などの制度も上手に活用する

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